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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)4125号 判決

原告(反訴被告) 津山敬之

右訴訟代理人弁護士 早瀬川武

原告(反訴被告)補助参加人 株式会社ビルディングナカヤマ

右代表者代表取締役 中山曻治

右訴訟代理人弁護士 平山三喜夫

被告(反訴原告) 井本知子

右訴訟代理人弁護士 成富安信

同 高橋勇雄

同 星運吉

右訴訟代理人弁護士星運吉訴訟復代理人弁護士 中山慈失

主文

一  原告(反訴被告)所有の別紙物件目録(三)記載の土地と被告(反訴原告)所有の同目録(二)記載の土地との境界は、別紙図面第一のイ、ロの各点を直線で結んだ線であることを確定する。

二  原告(反訴被告)が、別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分の土地につき、所有権を有することを確認する。

三  被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、被告(反訴原告)の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求事件

(請求の趣旨)

1 主文第一、二項と同旨

2 本訴の訴訟費用は、本訴被告(反訴原告、以下「被告」という。)の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

1 境界確定の点について

別紙物件目録(三)記載の土地と同目録(二)記載の土地との境界は、別紙図面第二のロ、D、Gの各点を順次直線で結んだ線であることを確定する。

2 所有権確認の点について

原告(反訴被告、以下「原告」という。)の請求を棄却する。

3 訴訟費用について

本訴の訴訟費用は、原告の負担とする。

二  反訴請求事件

(請求の趣旨)

1 第一次

(一) 被告が別紙図面第二のイ、ロ、D、G、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・三六八一平方メートルの土地につき、所有権を有することを確認する。

(二) 原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地のうち、別紙図面第二のG、D、ハ、ニ、Gの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・五七八四平方メートルの土地につき、時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

2 第二次

(一) 被告が別紙図面第二のイ、ロ、D、G、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・三六八一平方メートルの土地につき、所有権を有することを確認する(第一次(一)と同じ。)。

(二) 原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地のうち、別紙図面第二のG、D、ハ、ニ、Gの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・五七八四平方メートルの土地につき、地役権設定登記手続をせよ。

3 第三次

原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地につき、時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

4 第四次

(一) 原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地のうち、別紙図面第二のイ、ロ、D、G、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・三六八一平方メートルにつき時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(二) 原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地のうち、別紙図面第二のG、D、ハ、ニ、Gの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・五七八四平方メートルの土地につき、地役権設定登記手続をせよ(第二次(二)と同じ。)。

5 第五次

原告は、被告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地につき、地役権設定登記手続をせよ。

6 反訴の訴訟費用は、原告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

1 主文第三項と同旨

2 反訴の訴訟費用は、被告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の主張

(本訴請求原因)

1(一) 別紙物件目録(三)記載の土地を分筆する以前における別紙物件目録(一)記載の土地(以下「旧(一)の土地」という。)は、訴外津山敬亮の所有であったところ、同人は昭和三八年八月九日死亡したので相続が開始し、同人の子である訴外深間内圭子、同津山太郎、同津山広子(以上の者の持分は各一六分の四)及び右津山敬亮の長女みの子である訴外金子明子、同齋藤智恵子、同小林淳男、同小林稔生(以上の者の持分は各一六分の一)が右津山敬亮の権利義務を承継した上、同四九年一〇月二三日その旨の所有権移転登記手続を経由した。

(二) また、訴外津山太郎は、同四三年五月三日死亡したので相続が開始し、訴外津山典子(持分三六分の三)、同津山洋子、同津山敬子及び原告(以上の者の持分は各三六分の二)が訴外津山太郎の権利義務を承継した上、同四九年一〇月二三日その旨の所有権移転登記手続を経由した。

(三) 別紙物件目録(三)記載の土地(以下「本件(三)の土地」という。)は、同四九年一〇月二三日、旧(一)の土地から分筆された後、同五一年五月二六日、遺産分割によって、原告の単独所有に帰し、同年六月一八日その旨の所有権移転登記手続を経由した。

2 右のとおり、本件(三)の土地は、原告の所有であるが、被告所有に係る同目録(二)記載の土地(以下「本件(二)の土地」という。)と隣接している。

3 そして本件(三)の土地と本件(二)の土地の境界は、別紙図面第一のイ、ロの各点を直線で結んだ線であり、本件(三)の土地の範囲は、別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分と一致するから、右の部分は、原告の所有に属する。しかるに被告は、右の境界線を争い、右の部分は、被告の所有に属すると主張して、右の部分についての原告の所有権を争っている。

4 よって、原告は、本件(二)及び本件(三)の各土地の境界の確定及び本件(三)の土地である別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分の土地につき、原告が所有権を有することの確認を求める。

二  被告の主張

(本訴請求原因に対する答弁)

1 原告の主張(本訴請求原因)中、1及び2の各事実は認める。ただし、本件(三)の土地の範囲及びその現在の所有権の帰属の点については、後記2及び三の被告主張のとおりである。

2 同3の各事実中、本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界が原告主張のとおりであること、本件(三)の土地の範囲が別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分と一致すること、右の部分が原告の所有に属することを否認する。被告が原告主張の境界線を争っていること、被告が、右の部分についての原告の所有権を争っていることは認める。被告は、原告主張の右の部分とほぼ一致する別紙図面第二のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結んだ直線で囲まれた部分は、被告の所有に属すると主張するものである。なお、別紙図面第二のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分は、同図面のイ、ロ、D、G、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・三六八一平方メートル(以下「被告主張B部分」という。)と同図面のG、D、ハ、ニ、Gの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分五・五七八四平方メートル(以下「被告主張C部分」という。)をあわせた範囲の土地と一致する。

3 本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界は、別紙図面第二のロ、D、Gの各点を直線で結んだ線である。また、本件(三)の土地には、被告主張B部分は含まれていない。右部分は、本件(二)の土地に含まれているものである。

4 原告の主張(本訴請求原因)4の事実を否認し、主張を争う。

三  被告の主張

(反訴請求原因及び本訴請求原因に対する抗弁)

1(一) 被告は、訴外田辺とめの(以下「訴外田辺」という。)から、昭和四二年六月、本件(二)の土地を贈与され、その所有権を取得したものであって、本件(二)の土地は被告の所有であるところ、右土地は、原告所有に係る本件(三)の土地と隣接している。

(二) そして、本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界は、別紙図面第二のロ、D、Gの各点を順次直線で結ぶ線であり、本件(二)の土地は同図面のA、B、D、G、Aの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分であるから、被告主張B部分は、被告の所有に属する。また、被告主張C部分も、後記のとおり、被告の所有に属する。しかるに、原告は、右境界線を争い、被告主張B部分及び同C部分をあわせた範囲の土地とほぼ一致する別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分は、原告の所有に属すると主張して、被告主張B部分及び同C部分についての被告の所有権を争っている。

2 ところで、

(一) 訴外田辺は、昭和一〇年七月以来、本件(二)の土地を所有し、同二三年ころ、右土地上に、同土地と旧(一)の土地との境界に近接して二階建家屋を建築し、同建物で旅館業を営業するようになったが、本件(二)の土地と旧(一)の土地との境界に近接した本件(二)の土地の一部である被告主張B部分とともに、被告主張C部分についても、その頃、これらを自己の所有に属するものと過失なく信じた上、右建物から公道への通路として、その占有、使用を開始し、継続、かつ、表現の上これを平穏に通行してきたものである。このように訴外田辺は、同年以降引き続き同三三年頃まで、右C部分を占有したので、同人は遅くとも昭和三三年一二月末日、右C部分につき、その所有権を時効により取得した。その後被告は、訴外田辺から、同四二年六月、本件(二)の土地とともに、右C部分の土地の所有権の贈与を受けて、右C部分の土地の所有権を取得した。仮に、訴外田辺の占有、使用当初におけるその善意、無過失が認められなかったとしても、被告は、昭和四二年六月、訴外田辺から本件(二)の土地の贈与を受けるとともに、訴外田辺の被告主張C部分に対する占有を承継し、同四三年頃まで引き続きこれを平穏公然に占有、使用していたので、被告は、遅くとも訴外田辺の占有開始から二〇年を経過した昭和四三年一二月末日、被告主張C部分の所有権を時効により取得した。そして被告は、昭和五〇年二月五日の本件口頭弁論期日において右の取得時効を援用した。

よって、被告は、原告に対し、被告主張B部分につき被告が所有権を有することの確認を求めるとともに、被告主張C部分につき、時効取得を理由として、所有権移転登記手続をするよう請求する(第一次請求)。

(二) 仮に右C部分に対する右時効取得が認められないとしても、右(一)の事実関係に基づき、訴外田辺は、遅くとも昭和三三年一二月末日、右C部分につき、その通行地役権を時効により取得した。その後被告は、訴外田辺から、同四二年六月、本件(二)の土地とともに、右C部分の土地の通行地役権の贈与を受けて、右C部分の土地の通行地役権を取得した。仮に訴外田辺の占有、使用当初におけるその善意、無過失が認められなかったとしても、被告は、昭和四二年六月、訴外田辺から本件(二)の土地の贈与を受けるとともに、訴外田辺の被告主張C部分に対する占有を承継し、同四三年頃まで引き続きこれを平穏公然に占有、使用していたもので、被告は、遅くとも、訴外田辺の占有開始から二〇年を経過した昭和四三年一二月末日、被告主張C部分の通行地役権を時効により取得した。そして被告は、昭和五〇年二月五日の本件口頭弁論期日において右の取得時効を援用した。

よって、被告は、原告に対し、被告主張B部分につき、被告が所有権を有することの確認を求めるとともに、被告主張C部分につき、時効取得を理由として、地役権設定登記手続をするよう請求する(第二次請求)。

3 仮に本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界線が原告主張のとおりであって、本件(三)の土地の範囲が別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分の土地と一致するとしても、

(一) 被告は、右部分とほぼ一致し、本件(三)の土地の範囲と一致する別紙図面第二のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次直線で囲まれた部分の土地すなわち被告主張B部分及び同C部分をあわせた範囲の土地につき、次のとおり、その所有権を時効取得した。

(二) 訴外田辺は、前記2、(一)の事実関係に基づき昭和二三年頃から、被告主張B部分及び同C部分がいずれも自己の所有に係るものと過失なく信じた上、右B部分及びC部分の両者を、本件(二)の土地上に建設した前記建物から公道への通路として、その占有、使用を開始し、継続、かつ、表現の上これを平穏に通行してきたのである。このように、訴外田辺は、同年以降引き続き同三三年頃まで被告主張B部分及び同C部分を占有、使用してきたので、同人は遅くとも昭和三三年一二月末日、右各部分の所有権を取得した。被告は、被告主張B部分及び同C部分を時効取得した訴外田辺から、同四二年六月、本件(二)の土地とともに右B部分及びC部分の各土地につき、その所有権の贈与を受けてこれを取得した。仮に訴外田辺の占有、使用開始当初におけるその善意、無過失が認められなかったとしても、被告は、昭和四二年六月、訴外田辺から本件(二)の土地の贈与を受けるとともに、訴外田辺の被告主張B部分及び同C部分に対する占有を承継し、同四三年頃まで引き続きこれを平穏公然に占有、使用していたので、被告は、遅くとも、訴外田辺の占有開始から二〇年を経過した昭和四三年一二月末日、被告主張B部分及び同C部分の所有権を時効により取得した。そして被告は、昭和五〇年二月五日の本件口頭弁論期日において右の取得時効を援用した。

よって、被告は、原告に対し、被告主張B部分及び同C部分につき、時効取得を理由として、所有権移転登記手続をするよう請求する(第三次請求)。

(三) 仮に、右B部分及びC部分に対する右時効取得が認められないとしても、右B部分及びC部分の占有、使用に関する事実関係は、前記2、(一)及び3、(二)のとおりであるほか、本件(二)の土地及び旧(一)の土地の西側隣接地の所有者である訴外東芝商事株式会社(以下「東芝商事」という。)は、昭和三七年ころ、同土地上にビルを建築するため、同土地及びその付近の土地の測量を実施し、原、被告の各所有地との境界を明確にするため、別紙図面第二のD、Gの各点を結ぶ線上のX及びB付近のYの二点に境界石を埋設し、G点には鋲を打ったが、特にX点の境界石については、原、被告及び東芝商事が立ち合い、承諾の上でこれを埋設したのである。訴外田辺は、遅くとも、訴外東芝商事が境界石を埋設した昭和三七年頃から、本件(三)の土地のうち、別紙図面のX点に埋設された境界石とG点に打たれた鋲とを結ぶ直線上より北側にある被告主張B部分につき、それが自己の所有に係るものと過失なく信じた上、これを占有、使用して平穏に通行してきたので、訴外田辺から、昭和四二年六月、本件(二)の土地の贈与を受けるとともに、その被告主張B部分に対する占有を承継し、引き続いて右部分が自己の所有に属するものと信じてこれを平穏公然に占有、使用していた被告は、昭和四七年一二月末日には、右B部分の所有権を時効により取得した。そして被告は、昭和五〇年二月五日の本件口頭弁論期日において右の取得時効を援用した。なお、被告主張C部分については、前記2、(二)のとおり、通行地役権を時効取得した。

よって、被告は、原告に対し、被告主張B部分につき、時効取得を理由として、所有権移転登記手続を請求するとともに被告主張C部分につき、地役権設定登記手続をするよう請求する(第四次請求)。

(四) 仮に以上の反訴各請求がいずれも認められないとしても、前記2、(一)及び3、(二)の各事実関係に基づき、被告主張B部分及び同C部分につき、訴外田辺において、善意、無過失、平穏公然に昭和三三年までこれを占有、使用したことにより、遅くとも同年一二月末日、右各部分の通行地役権を取得したが、被告は、訴外田辺から、同四二年六月、本件(二)の土地とともに右両部分の土地の通行地役権の贈与を受けてこれを取得した。仮に訴外田辺の占有、使用開始当初におけるその善意、無過失が認められなかったとしても、被告は、昭和四二年六月、訴外田辺から本件(二)の土地の贈与を受けるとともに、訴外田辺の被告主張B部分及び同C部分に対する占有を承継し、同四三年頃まで引き続きこれを平穏公然に占有、使用していたので、被告は、遅くとも、訴外田辺の占有開始から二〇年を経過した昭和四三年一二月末日、被告主張B部分及び同C部分の土地についての通行地役権を時効により取得した。そして被告は、昭和五〇年二月五日の本件口頭弁論期日において右の取得時効を援用した。

よって、被告は、原告に対し、被告主張B部分及び同C部分につき、時効取得を理由として、通行地役権設定登記手続をするよう請求する(第五次請求)。

四  原告の主張

(被告の抗弁及び反訴請求原因に対する認否)

1 被告の主張(反訴請求原因及び本訴請求原因に対する抗弁)中、1、(一)の各事実を認める。

2 同1、(二)の事実中、本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界が被告主張のとおりであること、被告主張B部分及び同C部分がいずれも被告の所有に属することを否認する。原告が被告主張の境界線を争っていること、原告が被告主張B部分及び同C部分をあわせた範囲の土地とほぼ一致する別紙図面第一のイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分が原告の所有に属すると主張して、被告主張B部分及び同C部分についての被告の所有権を争っていることは認める。

3 同2、3、4の各事実中、訴外田辺が昭和一〇年七月以来、本件(二)の土地を所有していたこと及びその後同人が旅館業を営んでいたこと、訴外田辺が、被告に対して、本件(二)の土地を贈与したことは認める。訴外田辺が昭和二三年ごろ本件(二)の土地上に、同土地と旧(一)の土地との境界に近接して二階建家屋を建築し、同建物で旅館業を営業するようになったこと、訴外東芝商事が本件(二)の土地及び旧(一)の土地の西側隣接地の所有者であること、訴外東芝商事が、昭和三七年ころ、被告主張のとおりの測量を実施し、その主張のように境界石を埋設し、鋲を打ったことは不知、その余の事実は否認し、主張は争う。

第三証拠《省略》

理由

一  本訴中境界確定の請求について

1  本訴請求原因中1及び2の各事実(ただし、本件(三)の土地の現在の所有権の帰属の点を除く。)については、当事者間に争いがない。そして後記認定のとおり、本件(三)の土地の範囲は、原告主張のとおりであり、その所有権は原告に属するものであるところ、本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界が、原告主張に係る別紙図面第一のイ、ロの各点を直線で結んだ線であるのかあるいは被告主張に係る別紙図面第二のロ、D、Gの各点を順次直線で結んだ線であるのかについて争いがあるのでこの点について判断する。

2  《証拠省略》を総合すると、大正一四年頃、旧(一)の土地及び本件(二)の土地付近においては、大正一二年の関東大震災後の復興のために区画整理が行われ、その際「震災復興土地区画整理確定図」なる図面(以下「確定図」という。)が作成され、東京都にそれが備えつけられたこと、土地家屋調査士である訴外片岡衛(以下「訴外片岡」という。)は、昭和四七年八月ころ、地主の依頼を受けて本件各土地付近を測量したが、その際、同人は、前記確定図及び公図の写しを調査のうえ、右確定図に基づいて現況の八メートル道路と一一メートル道路との交点と本件(二)の土地とが接する地点を基点として確定図に表示された距離をとって測量したところ、訴外東芝商事によってその所有する土地及び本件(二)の土地の境界付近に埋設されていた石と、確定図における境界、基点等との位置関係が、旧(一)の土地と本件(二)の土地の境界付近においてそごしたため、訴外東芝商事の関係者に立ち会ってもらって測量し直したけれども、基点等の位置が必ずしも明確にならなかったため、翌四八年三、四月ころ、東京都に査定を依頼したこと、東京都の職員は、確定図を基本にしながら、本件各土地の周辺の数ブロック離れたところにあり、過去に査定したことのある測量基点を測り出した結果、本件(二)の土地の北側に存在する八メートル道路に面したL字型側溝の道路側より五センチメートル本件(二)の土地内に入ったところと、右土地の東側に存在する一一メートル道路に面したL字型側溝の道路側との交点を別紙図面第一中の原告主張におけるAのとおり確定したこと、そこで訴外片岡は、東京都の査定によって確定された右A点を基点として測量を実施し別紙図面第一中の原告主張におけるB、イ、ロの各点を確定したこと、が認められ、右認定を左右すべき証拠はない(もっとも訴外片岡が測量した右のA、B、イ、ロの各点間の距離は、A、B間の距離において、前記確定図に記載された距離と若干の差異が認められ、片岡の測量したA、B間の距離は一八・九六三メートルであるのに対し、確定図によると、A、B間の距離は一九・〇七二メートルであるが、右のA、B間の距離が一九・〇七強メートルであることは、当事者間に争いがない。)右に加えて、前記確定図はその作成の時期、作成の目的、作成の主体、作成の経緯等に鑑みこれに記載された土地の形状、面積、距離関係等において高度の正確性を有するものと推認され(右推認を左右すべき証拠はない。)るところ、訴外片岡の前記測量結果は、基点のとり方において確定図を基本にした東京都の査定の結果をもとにしたという有力な根拠があるばかりでなく、距離、面積においても右確定図及び検証の結果とほゞ合致しているのであって、これらの諸点を併せ考えると、本件(三)の土地と本件(二)の土地との境界は、別紙図面第一の原告主張に係るイ、ロの各点を直線で結んだ線であるとするのが相当である。

3  なお、《証拠省略》によると、訴外片岡が測量した当時、本件各土地には、別紙図面第二のB点の付近、B点とロ点を結ぶ線の南側延長線上のロ点から一九センチメートルの地点、及びイ、ロの各点を結ぶ線の西側延長線上のロ点から三、〇九一メートルの地点にコンクリート製の境界石が埋設されていたが、右各境界石は、本件各土地の西側隣接地同所六〇番一、同八一、八二番の所有者訴外東芝商事が、昭和三七年ころ、同所にビルを建築するにあたって同所周辺を測量した結果、本件各土地との境界を示すものとして埋設したものであること、前記の訴外片岡による測量の結果は、右各境界石の位置と一致しなかったため、東京都の査定の結果をあわせて同社に確認したところ、同社による測量は八メートル道路と一一メートル道路との交点に面する本件(二)の土地の北東の角の点を、右各道路の交差するL字型側溝の内側の交点に求めたことから右の不一致が生じたこと、が判明し、訴外東芝商事は、測量の基点を確たる根拠に基づいて側溝の内側の交点に求めたものではないことも明らかになったこと、以上の各事実が認められる(他に右認定を左右するに足りる証拠はない。)のであって、右各事実は、本件(三)の土地と本件(二)の土地の境界線に係る前段認定を左右するものではない。

二  本訴及び反訴中の所有権確認及び反訴中の各登記手続請求について

1  本訴請求原因中、1及び2の各事実(ただし本件(三)の土地の現在の所有権の帰属の点を除く。)については当事者間に争いがないから、抗弁について判断すべきところ、抗弁のみならず、反訴の各請求は、本件(二)、(三)の各土地にまたがる土地部分を占有、使用したことによる土地の所有権の時効取得、又は、右土地の通行地役権の時効取得を基礎とする主張であって、これらに対する判断には共通するところがあるから、以下においては、右の点を一括して判断することとする。

(一)  《証拠省略》を総合すると、いわゆる第二次大戦後、旧(一)の土地の所有者亡津山敬亮は、同土地を訴外榎本に賃貸し、同人は同土地上に木造平家建工場を建築したこと、訴外田辺は、昭和二二、三年ころから、本件(二)の土地上に二階建家屋を建築して小泉旅館を営んでいたが、右建物の建築を担当した訴外小野孝太郎は、同地に隣接する右工場建物の状況及び屋根の具合からみて、同建物から五寸位離れた地点が右土地の境界であると推測し、そこから二尺三寸離して右旅館建物を建築したこと、同人は、同三三、四年ころ、小泉旅館の再築を手がけたが、その際も、右の推測した境界線からかなりの距離をおいて同旅館の建物を建築したこと、他方、同三〇年ころ、榎本から旧(一)の土地の借地権を譲り受けた訴外実方はまは、同土地上の工場建物を撤去したうえ、建物を建築して旅館を開業したが、右建物の建築に際して、同人は、訴外田辺から、小泉旅館側は境界から一尺五寸離してあるから、そちらも一尺五寸あけるようにとの申し入れを受け、右の間隔をあけて右建物を建築したこと、同四七年、実方から本件(一)の土地の借地権及び同土地上の建物の譲渡を受けた訴外ビルディングナカヤマは、右建物を取り毀したうえ右土地上にビルを建築したが、その際、訴外宝栄商事から、訴外片岡の測量結果により境界とされた線を指示され、そこから九〇センチメートル離して右ビルを建築し、その結果、小泉旅館の建物と右ビルの間の路地は、以前に比べ相当広くなったこと、旧(一)の土地上には、戦後、木造平家建工場が建てられ、その後昭和二二、三年ころ、本件(二)の土地上に小泉旅館が右工場から二尺八寸離して建築され、両建物の間は、路地として、小泉旅館の客の非常用通路や同旅館を利用する売春婦らの通路として事実上利用されていたこと、以後、同四七年に浜本旅館が廃業するまでの間も、両建物間の路地は、浜本旅館側の者が通行することはあまりなく、時に女中が出入りしたり、風呂の焚口が右の路地の側にあったためその焚付けに利用していた程度にすぎなかったものの、ここに小泉旅館側で物を置いた場合には、浜本旅館側からの抗議がなされていたこと、右路地の公道に面するところには、浜本旅館建築以前から小泉旅館により木戸が設置されていたが、その後浜本旅館が、更にその後は小泉旅館が木戸を作り直して設置していること、同三七年、訴外東芝商事により前記認定のとおり境界石が埋設されたが、その際に浜本旅館側の者が立ち会ったことはなく、路地の使用状況においても右時点の前後に格別の変化はみられなかったこと、以上の各事実が認められる。《証拠判断省略》

(二)  ところで、土地所有権の時効取得の一要件たる占有があるというためには、社会通念上当該土地について事実上の支配をしていると認められる客観的関係があることを要するものであるところ、右(一)に認定の事実関係によると、訴外田辺は、浜本旅館建築の前後を通じ、隣接建物と小泉旅館の建物の間を、その所有権の帰属について深い関心もないまま、公道に至る路地として、時に応じて客らに使用させていたにとどまり、右路地全体を小泉旅館側で自ら独占的排他的に使用する意図が訴外田辺に存したとは認め難いのみならず、浜本旅館建築後においては、同旅館側も木戸を作り直したり、右路地の使用について苦情をいったりなどしており、訴外田辺ないしはその承継人たる被告において、被告主張のいかなる時点にあっても、右路地あるいはその一部を、独立して他人の干渉を排除しうるような自己の支配下におき、これを事実上支配していたとは認めることができないものというほかない。そして、被告の全立証その他本件全証拠によるも右の点を肯認することができない。

(三)  次に、時効取得の認められる通行地役権は、継続、かつ、表現のものに限られるのであるが、右にいう継続、かつ表現のものであるためには、他人の土地を通行して利用する状態が通路の開設により客観化されることが何よりもまず必要であるとしなければならないところ、本件のように、単に隣接する建物相互間の路地を両土地の所有者ないし借地権者各自が公道に出るための自然の通路として相互に事実上使用し公道への出口に木戸を設置したにすぎない程度の利用状態である場合には、訴外田辺ないしその承継人たる被告において、通路を開設して、継続して地役権を行使したとするに足りないものといわなければならず、被告の全立証その他本件全証拠によるも、右の点を積極に認めるに十分ではない。よって、土地の所有権の時効取得又は土地の通行地役権の時効取得を基礎とする被告の主張は、その余の点を判断するまでもなくすべて理由がない。

2  次に前記当事者間に争いのない事実及び以上までに認定の各事実並びに《証拠省略》によれば、別紙図面第一の原告主張に係るイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分の土地が本件(三)の土地の範囲と一致すること及び別紙図面第二における被告主張に係るイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分が被告主張B部分及び同C部分をあわせた範囲の土地とほぼ一致することが明らかであるとともに、本件(三)の土地の所有権は原告に属するものというべきである。

3  以上によれば、本訴請求中、別紙図面第一の原告主張に係るイ、ロ、ハ、ニ、イの各点を順次結ぶ直線で囲まれた部分につき、原告がその所有権を有することを争う被告との間に、原告において右部分の所有権を有することの確認を求める原告の請求は理由があるからこれを正当として認容すべく、被告主張に係る被告主張B部分につき被告が所有権を有することの確認を求める被告の反訴請求、被告が、原告に対し、別紙物件目録(三)記載の土地又は被告主張B部分もしくは同C部分につき、被告において所有権又は通行地役権を時効取得したことを前提として、原告に対し、右所有権又は通行地役権につき、登記手続を求める被告の反訴各請求は、いずれも理由がないからこれを失当として棄却すべきである。

三  よって、訴訟費用は、本訴・反訴を通じ、被告にこれを負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙田富士夫 裁判官 日野忠利 裁判官嶋原文雄は職務代行を解かれたので署名押印できない。裁判長裁判官 仙田富士夫)

〈以下省略〉

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